一月

▽うちの句会では新年に限つてその年の干支に因み課題することにしている。今年は寅歳だから虎である。みんな張り切つてやろうじやあないかと、その虎の勢いにあやかりたい気持ちで新年の挨拶をとりかわす。虎は千里行つて千里戻る程の足の強さを誇つているが商売柄こんな小咄が目についた。
▽昔のこと、ご無心申したい。いくらほど。千両だが。いゝとも、期日まではきつと返してくれよというわけで、千両貸した。期日になると、ちやんと千両持つて来たが、何か忘れてるんではないかとかまをかける。利息かい。図星だ。今年はなに歳だと思う。寅歳だ。だから千両借りて千両返す。
▽こんな洒落が通用出来る間柄なら嬉しいが、せち辛い当節、それはかないそうもない。利息がおんぶしてやつて来る。ニヤ〱している風にも見えてくるのである。
▽まだ元金を返す方はよい。借りるときに既に遠大な野望を持つていて返すつもりのない不埒ものもいる。何回催促しても逃口上一天張り。でもこれを小咄にうまく語らせると面白味が出てくる。
    小判
鳶の者毎日毎日々々小判五両許り、出して見ては笑ひ出して見てはわらひ、仕事もやめて一日笑ふにかゝつて居れば、家主見付けて「コレ貴様は此頃うち、其金を見ては笑つて計り居て仕事にも出ぬが、マア何がそのやうにをかしいといへば、「大家さん是がをかしくなくてどうするもんでござへす、「なぜをかしい、「ハテ此金をよそで借りてきやしたが、是を返すまいとおもへば、いつそをかしくてなりやしねへ。 (安永九年刊・大きに御世話)
▽まだこれほどにはならないが、借金取りからのがれるようなことをしてしまつた。十二月三十一日午後六時四十五分という時間だ。NHKローカルで「大みそかの表情」で松本駅善光寺の二元放送に引つ張り出された。ゲストのあちらは金子呑風さん。気楽なやりとり。翌日、元旦には信越放送テレビに「風流新春ばなし」の座談会に出た。古川柳に曰く
 元旦にいけしやあ〱と
             よみがへり
われながらちよつとテレた。